ログビルダー体験記

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エド・キャンベルとともに過ごした日々 第3回 スコッッチクリークの夏


「コミュニティーのために自分が出きる何かをしなさい」
それがエドの考え。
地元消防団への入団し すっかり地元に溶け込んだ。
長女・舞衣チャンも誕生、しっかりと地元に根を下ろした

  薪ストーブで火事になったときの対処の仕方の
ノウハウも。

第1回 ログビルダーの冬と春

第2回 コミュニテーに溶け込む

第3回 スコッッチクリークの夏

第4回 ログビルダーへの憧れ

第5回 開拓者の末裔たち

第6回 ログハウスを造るということ


第3回 目次

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1.地元の消防団への参加

 地元の消防団への参加
 ピーピピピー・・・、何回目かの鋭いブザーの後にこう放送が続く
 ”this is Scotch Creek-Lee Creek Fire Department. Your call is broadcasting to all our fire fighters, so stay on the line
  私の持っているトランシーバーに緊急のコールが入る。引き続いて切羽つまった人の声が聞こえる。


  鋭いブザーの音は、たとえ夜中であろうと早朝であろうと、容赦なく私たち家族をたたき起こす。
  いつもは寝起きの悪い私でも、このコールを耳にしたときばかりは、一思いにベッドから飛び出し、そのまま車に飛び乗る。カナダでの緩やかに流れる生活のペースの中で、珍しく緊張する一瞬である。



  日没の、とても遅い真夏の夜中、あるいは凍てつくような雪道を滑ってスピンしそうになりながらも、 一目散に消防署を目指して車を飛ばす。そこにはいつものメンバーが既に消防服を纏い、私の到着を待っている。

  カナダへ来て、ログビルダーとしての労働許可が下り、大好きなログを思う存分刻める喜びや、家族を持ち、待望の長女・舞衣が誕生したという喜び。そしてもう一つ、地元の消防団への参加により、コミュニティーの一員として認められ、人々に迎えられて活動できるという喜びがそこに加わった。

 コミュニティーのために自分が出きる何かをしなさい

 BC洲スコッチクリークという小さなコミュニティーの中で暮らしていくには、自分のわがままよりも、きっと、もっと優先して大切にしなければならないことがあるようだと思った。
  私をそんな気にさせたのは当時のボス、エド・キャンベルの考え方によるところが、実は非常に大きい。エドのスタッフのうちの何人かは(息子のブライアンや娘のブレンダを含め)この消防団のメンバーであった。

 「自分の住んでいるローカルコミュニティーのために、自分が出きる何かをしなさい」--それが彼の考え方であったし、私もそれには賛成であった。

 ログワーク中に、例えば火災が発生し、消防活動のために私たちが仕事を抜けなければならなくなった時にも、エドは通常の賃金を私たちに支払ってくれた。それが彼の考える、自分たちのコミュニティーに対しての活動、あるいはサポートだったのだと思う。

2.公共の施設、が何もなかった

 自分達のことは自分達で

  ここスコッチクリークには、公共の施設、つまり警察署や病院や郵便局といったものが何もなかった。
だから火災だけでなく、全ての緊急コールは地元の消防団へとレポートされる。

 交通事故であったり病人であったり、心臓発作であったり、あるいは湖上で、借りていたボートに穴が開いてしまい、今にも沈みそうなので助けて欲しいだとか、我が家の猫が木に登ったまま降りられなくなったので、はしご車で来て欲しいなどという呼び出しまであり、私たちは地元の何でも屋になってしまうわけだ。

 勿論田舎の消防団にプロの消防士なんかい
ない。ただの素人の集まり、気さくな町の若者たちのあつまりなのだ。

 消防の訓練
 
 毎週月曜日の夜7時から、簡単な訓練を兼ねたミーティングを行う。

 ホースの結び方、ポンプの操作の仕方、はしごのかけ方、放水の仕方など、覚えておかなければならないことは沢山ある。
 でも気が付かないうちに、皆ビールを片手に、てんでんばらばらにお喋りが始まってしまう。訓練なんかつかの間、いつの間にか終わってしまっている。

 それでも私達は、一応いくつかの正式なコースを受講し、知識を教えこまれている 。
 消防本部から役員を迎えての火災防止(Fire prevention)コース、救急車の乗務員を迎えての救急法(first aid)コース、緊急時の酸素ボンベ使用法(Oxygen Therapy)コースなど、それぞれの試験に合格し、セント・ジョージ・アンビュランス協会から認められた資格者である。

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3.火事だ! いざ消防団の出番

 薪ストーブの煙突からの火事

 私たちはコミュニティーの用意する生命保険に加入し、火災などの活動時の補助として、一時間あたり10ドルの慰労金を支給される。
 この慰労金は年に一度、クリスマスの時期にまとめて渡され、それは私たちの、ほんのささやかなクリスマスプレゼントになる。クリスマスのころと言えば薪ストーブを使用している家庭が殆どなので、チムニー・ファイヤー(煙突内からの火災)が一番多い。

  私の住んでいる2LDKの小さなログハウスでさえ、一冬を過ごす間に、4tロングトラックに満載できるほどの薪を軽く燃やしてしまう。一日中、火を絶やすことがないので、薪はどんどん消費されていく。しかし、夜眠る時などは、火勢を小さくし火力を落として、明け方まで火がもつように、ゆっくりと薪を燃やす。

  

ところが、十分に乾燥していない薪を燃やすと、しばしば薪は不完全燃焼を起こし可燃性ガスを発生する。そのガスが冷却されると、 煙突や暖炉の内側に黒いタールとなり(またはクレオソートとも呼ばれる)付着する。このタールが積もり、ついには厚い層となり、やがて一瞬のうちに火がついてしまう。

  タールは「待ってました」とばかりに真っ赤な炎を上げ、煙突の中を勢いよく焼き始める。この時ストーブの吸気口からはゴーというものすごい吸気音とともに大量の空気が吸い込まれていく。炎はより勢いを増し、私たちに、髪の毛が逆立ってしまいそうなくらいの恐怖感を味わせてくれる。やがて勢いを増したこの炎は、運悪く建物まで広がることになる。

 火事を防ぐ一番の方法

  

 ログハウスを持ち、薪ストーブをお使いの皆さん、チムニーファイヤーには十分に気をつけてください。

 恐らく煙突の中は、とても汚れていると思う。まめに掃除をしてやる
こと。不幸にしてまめでない方のために、一日に一度薪を大量にくべ、火力を最大にして熱を上げ、その日にたまったタールを強制的に焼いてしうとう方法もある。
 そのとき、多分煙突からは白い灰がふわふわと飛んでくるはず。ただしこの方法、乾燥した地域のシーダーシェイク張りのログハウスには向かない。

 暖炉でもストーブでも理屈は同じだが、常に煙道をきれいに保っておくことが、火事を防ぐ一番の方法のようである。そのためには、いつも、よく乾いた薪を準備しておくことが肝心。

 もし火事になっても慌てずに

 もし不幸にも薪ストーブにチムニーファイヤーが発生してしまったら、先ず落ち着いて約1Lほどの水をストーブに放り込み、次にストーブの吸気口を、全て完全に閉じること。
 ほうりこまれた水は、燃え盛るストーブのなかで一気に蒸発し、多量の水蒸気を発生し、煙道に駆け上がり、炎を包み抑える。また、空気の供給を遮断されることによって火災は勢いを小さくするか、運がよければそのまま鎮火してしまうはず。

  12月24日と25日の夜、クリスマスプレゼントを貰った子供たちはその包装紙をストーブに入れて燃やす。炎に包まれたたその包装紙は、煙突の中をフワフワと昇り、その炎が煙突内のタールに火をつけてしまう。
 カナダでは、クリスマスの夜に発生する火災が、実はとても多いのである。クリスマスの夜にパーティーによばれても、私たちがあまりお酒を呑まないでいるのには、こんな理由があったからなのである。

4.夏の暑い日の洗車大会

 夏の、暑いある日曜日、消防署の前の広場に消防車を出し、近所の子供達を集めて洗車大会をする。
子供たちが手を振り、通りを行く車を止めてはデッキブラシやたわしでその車を洗い、私たちが消防車で勢い良よく洗剤を流すのである。
  子供も 大人も、通りを行く人々も水しぶきを浴び、びしょ濡れになりながらはしゃぎまわる。
  消防署のとなりにある、夏の間だけオープンするアイスクリーム屋の三段重ねの色とりどりのアイスクリームをなめながら、泡と水に戯れて一日過ごすのも、それはそれで結構楽しいものである。

 洗車に訪れた人々は、それぞれいくばくかの寄付金を払い、それが子供会の会費になったり、ちょっとだけ貧しい人々のための援助金になったりする。たまには、消防署の冷蔵庫を満たすビールへと化けたりすることもあるのだが・・・。

 私はカナダでこの活動を通して、より沢山の人々と知り合うことが出来たし、今まで考えたこともなかったローカルコミュニティの中で生きるという意味を初めて実感を伴って理解することが出来たような気がする。
 私は、当時のメンバーたちで作った、消防署のロゴ入りのグレーのジャンパーを、今年の冬も大切に使っている。

 帰国して、日本で暮らすようになって3年半になるけれど、今でも何かの拍子にピーピピピピという、あの緊急コールに似た音を耳にするたびに、私の心臓の鼓動は一瞬にして高鳴り、背筋がピンと伸び、全身に緊張感が走ることがある。まるであのときと同じに・・・・。



  

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