ログビルダー体験記

図書館・出版
ログハウスHOME > 図書館・出版トップ > 図書館 > エッセイ集>エドと過ごした日々第6回
エド・キャンベルとともに過ごした第6回  ログハウスを造るということ





第1回 ログビルダーの冬と春

第2回 コミュニテーに溶け込む

第3回 スコッッチクリークの夏

第4回 ログビルダーへの憧れ

第5回 開拓者の末裔たち

第6回 ログハウスを造るということ


第一回  目次

※番号をクリック→希望の項目に飛ぶ

























1.ピーラーは縁の下の力もち

原木からの皮むき
 山から伐り出され、私たちのワークサイトに運ばれてきた原木の山は、その用途(これから刻まれるログハウスのどの部分に使われるか、あるいは、その丸太の太さや曲がり具合など)によって分類される。
 毎日帰り際に、その分類された丸太の山から、明日の作業に必要な何本かを選び出し、ローダーで皮むき用のデッキの上に並べておく。時には、皮をむいてほしい順に、丸太に番号を振っておくこともある。

 暑く埃っぽい、日照時間の長い夏の日、ピーラー(皮むき作業員)たちは、私たちビルダーたちが作業を終えた夕方、太陽が少し傾き涼しくなり始めたころにやってくる。
 もともと日本の夏のように湿度が高く、むしむしするような暑さではないから、直射日光の当たらない場所では常に、吹く風が人々に心地よさを与えてくれる。緯度が高く日没が遅いので、ピーラーたちは夜の9時、10時まで皮をむいている。
 しかし人によっては朝早くからやって来るピーラーもいるようだ。いずれにしても昼間の直射日光の下で働くには、あまりにも重労働だと思う。夏の間私達ビルダーも、朝5時半から仕事を始め、午後2時半には作業を終わらせて帰ってしまう。

   翌朝ワークサイトに着くと、昨日帰る前にデッキに載せておいた原木が、きれいに皮をむかれて私達を待っている。まるで童話の「小人の靴屋」のようだ。私たちが帰ってしまった後、人気の失せたワークサイトで、ピーラーたちは何を想い、何を話しながら丸太の皮をむいていたのだろう・・・。

 直径40〜50cm、長さ12mほどの真っ直ぐ育ったダグラスファー。
分厚い粗皮に包まれ、やけに堂々とデッキに横たわっている。ピーラーたちは、まずオノでその分厚い粗皮を叩き割り、はがしてゆく。
 それから改めて仕上げ用のドローナイフ(手むき用のナイフ)で、ログの表面をきれいにしながらむき進め、仕上げてゆく。

ページトップへ

2.ログビルダーの仕事

皮むきは、最も重労働でかつ重要な作業

 いつも自分のトラックでトレーラーハウスを引っ張り、そこで暮らしている、元樵(きこり)のデイブおじさん。
体はとても小さく、身長はたぶん160cmにも満たない痩せたおじさんなのだが、
彼の皮むきは天下一品だった。
 私たちが欲しい巨木を、いともたやすく、咥えタバコでどんどん仕上げてくれる。
そして愛犬は、いつも足元でジャレていた。

 
プロレスラーのような大男ケン、夏休みを利用して来ていたハイスクールの生徒。 名も知らぬインディアンの少年、ちっともうまくむけなくて、いつも怒っていたピーラー、たくさんのピーラーがいた。

  全身を伸ばしドローナイフを両手に握り、一気に見を縮めるようにして皮をむいていく。 遠くにいても、皮をむいていくシュッシュッという音が、規則正しく聞こえてくるようだった。

 皮むきという作業はとても地味で目立たない仕事なのだが、ログハウスにとって皮むきは、最も重労働でかつ重要な作業だと思う。

 誰もいなくなったワークサイトで、彼らが大木と向き合っている後姿が、今でも目に焼き付いている。
 朝、誰かが忘れていった清涼飲料水のペットボトルが、むかれたばかりのログに立てかけられたままになっていることがある。

3. バリュー・アデッド・プロダクツ

 私たちは、むかれたばかりのログを刻み上げていく。丸太が積まれ壁が仕上がっていき、開口部がカットされ、そしてアーチがカットされる。
 フロアビームや屋根の小屋組みが刻まれ、やがてログハウスは完成へと近づいていく。

 階段を造り、手摺を造り、彫刻を施してやる。一軒のログハウスを完成させるために、私達は色々考え、想像し、いつものように悩み、そして手間暇をかけて作業を進める、サンダーで木口や開口部、ログ壁のダメージなどを調整し、黴止めスプレーを噴射し、最後に通しボルトや電線の穴加工をしながらコンテナーやトレーラーに積み込む。

 ログハウスを手造りするということは、結構手間のかかる作業の連続なのです。そしてこれこそが手づくりのハンドカット・ログハウスの醍醐味なのではないかと思います。
 同じような一本の原木が製材所でオートメーションの製材機に飲み込まれ、あっと言う間にツーバイー材の製品に姿を変えたり、マシンカットのログ部材に製材されていくのとは、基本的に考え方や作業工程が異なるに違いないのです。

 一本の原木から作り出される製品の付加価値は様々です。
  バリュー・アデッド・プロダクツ(Value added products)という言葉があります。
訳せば、「限られた資材の中で、付加価値の高い製品を作りだす」ことを意味します。
 カナダで生活していたころ、わたしたちが真剣に考えていたことです。

 カナダ政府は、原料としての原木の輸出をやめてしまいました。カナダで生育する原木に少しでも手を加え、その価値を高め、製品として輸出していこうという考え方です。
 もちろん外貨の獲得も目的の一つでしょうが、同時に天然資源の重要さと人々の技術の向上を目指したものでもあるのです。
 カナダの社会は、私たちのいた「エド・キャンベル・ログホーム」のような、たくさんのちっぽけな会社(Small Business)の集合体です。
 付加価値が高められ、品物がよい値段で売れれば、そこから得られたお金は確実にその地方の人々の生活に反映されます。

ログハウスの温かさや魅力

  2週間に一度の給料日の夕方、エドがうれしそうに話してくれたことがある。
「ついに私たちはノース・シュスワップ(BC洲、シュスワップ湖の北側地域)で、2番目に大きな会社になった。
私は19人の人々に給料を払うことができる」と。
 ちなみに1番目は、常にアダムス・ランバーという製材所。

 一人がたくさんお金を掴むのではなく、関わってくれた人々に給料を払えることの喜び。そして、その関わってくれる人々に対して仕事を作り出していけるという誇りと人間関係の大切さを、僕に話してくれた。
 製材所では、あっという間に1本の丸太からバラバラと2x4の材料が刻み出されていく。

 けれど、ログハウスに使われる1本の丸太には、何日も何週間にもわたり、いろいろな人々の手がかけられ、あるいは願いがこめられていく。

 たくさんの人々の手が加えられれば、加えられるほど、手間暇をかければかけるほど、その丸太は“付加価値”という経済的な要素を高めていく。
 しかしそんな経済的な面ばかりではなく、私たちが感じているログハウスの温かさや魅力をも同時に増加させてくれるているのではないかと思う。

 皆さんはどう思われますか?
  

ページトップへ